問題のある人間も雇わざるを得ない状況
現役看護職員のわたしが思うに、川崎老人ホーム事件の容疑者は単に悪い奴です。例えば、彼が他の仕事をしていたとしても何らか問題を起こしたことでしょう。
問題はそんな人間でも雇わざるを得ないような状況が介護の現場に起きているということです。介護施設の人手不足は深刻で、働く場所がない人たちの受け皿になっています。とりあえず誰でも入れろ!という感じで、相当おかしな人でも職員になることができます。例えば、人と話をするのが苦手で営業職がうまくできなかった人なんて職員がいますが、ふつう雇いますか?介護職は人と話をするのが苦手だったらダメなはずですよね。だって高齢者の方とコミュニケーションをとることはより難易度が高いんですから。
「介護職が少ないんだから仕方ない」「社会全体が労働者不足なんだ」経営者の決まり文句ですが、本当にそうなんでしょうか?経営者は本当に全力を尽くして「良い人材を探している」のでしょうか?
虐待が日常になると相手を大切に思えなくなる
川崎老人ホーム事件の「Sアミーユ川崎幸町」ではこの事件以外にも虐待が行われていたようです。
虐待もしくは虐待に近いことが日常的に行われている施設で働いていると、それがあまりに当然になってしまって、倫理感が壊れてしまいます。最初に目にした驚きは徐々に麻痺しちゃいます。これは別にブラック介護施設の職員が悪いわけではありません。誰もがそうなります。兵士が戦場で倫理感を失うのと同じです。
そして、入所者を大切な人間とは思えなくなってしまいます。コールを鳴らしまくる入所者に対して、「鬱陶しい」以外の感情を持てなくなってしまいます。繰り返しますが、それは別に介護職員が悪いわけではありません。そして、ほとんどの介護職員が入所者を殺したりはしません。しかし、そのようにおかしくなった介護現場に元から倫理感などない人が勤めていたらどうでしょうか?
最後の垣根など軽々と飛び越してしまうかもしれません。
問題はブラック介護施設の経営陣
多くのブラック介護施設の経営者は「虐待はダメだ!」と思っています。それは冗談ではなく本当にそう思っているんです。が、同時にそれをなくすためのお金も労力も使いたくないと思っているんです。
「虐待はあってはならない。しんどいのはわかる。ツラいのはわかる。しかし、虐待をしないように!」
単に個人へ「もっと頑張れ!」と言っているだけです。介護職員はもう十分に頑張っています。夜勤明けでそのまま入浴介助なんかをしているような状態なんです。全体の流れを変えられるのに、一介の介護職員に出来ることはたかが知れています。
本気で虐待のない施設を作ろうと思うのなら、まずは良い人材を死ぬ気で探して、労働条件をひとつひとつ改善していってください。